2016-02-15 13:00:00

子どものこころとからだを育む運動指導~幼児期から取り組む重要性と指導留意点~

 今回は、第20回スポーツ少年団指導者全国研究大会(2015621日開催)での春日晃章氏(岐阜大学教育学部准教授)の特別講演をまとめていきます。子どもたちの体力低下という問題は心の問題にもつながっています。そうした問題の解決策として、幼児期の運動遊びが、単に身体的側面だけではなく、心、社会性、脳機能の発達にも大きな影響を与えることを豊富な経験とデータをもとに説明されています。

 

子どもたちの体力は「走る」「跳ぶ」「投げる」で回復せず

 

今の子どもたちの体力は低下していると言われています。実際は、1985年くらいがピークで、そこから低下の一途をたどりました。1998年あたりが一番のボトムで、最近はいろいろな施策や取り組みがあり、若干回復傾向にあります。一方、体格はどうかといえば、発育の加速化現象で身長が3cmほど伸びています。したがって今の子どもは体格こそ大きくなったものの、それを使いこなす運動能力や機能が発達していないということになります。やはり身体活動不足なのです。これを念頭に置いて1998年から、10年間の推移を細かく見ると50m走、立ち幅跳び、ボール投げに関して、今の日本の若者はどの世代もやはり回復傾向にありません。つまり「走る」「跳ぶ」「投げる」といった動作に関して、回復傾向にないのです。小学校低学年(12年生)を示す7歳の結果では、反復横跳び以外は上がっていません。きのう、きょうの生活習慣ではなく、その数年前からの結果が反映してくるわけですから、幼児期から何か手を打っていかないといけないということです。

 

得意、苦手の二極化が進む

 

もう一つ大きな問題になっているのが、二極化の現実です。体力テストの結果を見ていきますと、学校のトップレベルの子どもたちの体力は、少し上がっています。それはジュニアから専門的にスポーツに取り組む環境ができたからだと思われます。運動のできる子は徹底的に高くなり、低い子の集団との差が年々広がっています。中学校の体力テストの結果を見ると、ふたこぶラクダのようになっています。それは部活に入っている子と入っていない子で差が生じ、中間層がいないわけです。例えばスポーツ少年団では、よく動ける子たちだけを相手にすればいいと思ってしまうかもしれませんが、ご存知のとおり少子化ですので、母数がどんどん減っていくわけです。ですから、運動に興味のない、運動が苦手な子どもたちを引き上げ、中間層を増やし、運動が好きだという子どもたちを育てていく必要があるのです。

 

 この二極化の出現は、すでに幼児期から始まっています。ですから、早めに取り組んでいかなければならないのです。幼稚園で年長時にボール投げのテストを行うと、ある子は15mくらい投げられますが、できない子3mくらいになります。問題はここにあります。この子たちが同じクラスで、ドッヂボールをしたとき、投げられる子どもは、キャッチもできると思いますが、投げられない子どもは、キャッチすることも慣れていないので、ドッヂボールをやっても楽しいわけがないのです。

 

身体的な力と心の力

 

体力の概念というのは、実は身体的な要素ともう1つ、精神的な要素もあります。どんなにいい体があっても、動こうという気力がなければ、心の力がなければ人間の体は動きません。したがって、学校体育の場でもそうですし、スポーツ少年団の指導の場でも、体力を高めようと思ったときには、体と同時に、心を高めるということを忘れずに取り組んでいただきたいと思います。実は、日本はとても自殺の多い国なのです。現実的には、最近少し経済がよくなって、自殺がぐっと減ってきています。ただ、若者の自殺はまだ歯止めがかかっていません。子どもたちにとって非常に危機的な状況が続いているのです。

 

 ここでお伝えしたい改善策は、幼少期からの体力向上、しかも徹底的な体力の向上を図ることです。ただし、それは運動遊びやスポーツを通して、体だけでなく、心や社会性を養って頂きたいということです。そして継続すること。そのためには本人が楽しいと思わなければ続きません。そして多くの友達と群れながら、身体活動、運動遊びを通して向上させる。この徹底した体力の向上が成し得たときには、おそらく危機的状況は改善していくだろうと思っています。多くの友達といっても、やはり少子化ですので、近所になかなか友達がいない、そして、兄弟姉妹も少ない。そういった中で、スポーツ少年団は、同世代の子どもたちが集まる貴重な場なのです。そこで群れながら、しっかりと身体活動をさせていただきたいと思います。

 

よく遊ぶ子が、よく勉強もする

 

 科学が発達したおかげで、運動するとこんなに良い効果があるということが分かってきています。友達と運動遊びをする子どもとしない子の調査をずっと見ていきますと、このような報告があります。運動=体と思われることがあるのですが、それだけではありません。学校の先生に相対評価をしてもらうと、運動遊びをよくしているとか、体力の高い子は、やはりコミュニケーション能力も非常に高く、ルールを守ることができる。そして、脳の発育、発達にとっても、非常にいい影響がある。子どもにとって必要な要素を、運動遊び、継続的に友達と群れながら遊ぶことによって得られるのです。

 

 もう一つおもしろいのが学力との関係です。数年前から文部科学省が全国的に行っている学力テストと体力テストの関係を見たら思いのほか関係性が高かったのです。よく遊ぶ子はよく勉強もしています。「勉強するとき」「運動遊びのとき」「今はゲームをしていいとき」とスイッチを切り替えられるのです。

 

幼児期の運動は60分が目安

 

 よくいわれるように、脳の重力に見る神経系の発達は20歳を100とした場合、おおよそ10歳で100になります。俗に言う運動神経なども10歳までに決まってしまいます。また幼児期のおおよそ6歳くらいまでで8085%までの脳が完成します。そうするとこの間に行われたいろいろな経験によって、自分の趣味趣向も決まっていきますし、能力も決まっていくと言われているのです。運動能力の高い、低いを、親の遺伝と言われる方が多いのですが、そうではありません。経験です。お父さんとお母さんが文化部だから運動音痴になるということは、これは間接的な影響なのです。つまり、運動とかスポーツの話題が少なく、興味がない家庭は、やはりお子さんも動かない傾向にあるわけで、運動の経験が乏しくなっているのです。

 

 そこで出てきたのが文部科学省がまとめた幼児期の運動指針です。幼児の調査を全国的に3年間行い、それをまとめたものです。幼児はさまざまな遊びを中心に、毎日、合計で60分以上楽しく体を動かすことが必要です。ただし、トレーニングになってはいけません。幼児期の特性を踏まえ、一つの種目だけでなく、多様な動きをさせてください。そして、楽しく、遊ばせるように、体を動かすようにしてください。

 

 ある幼稚園で一ヶ月間、週に2回、各30分ずつ運動・ボール遊びの指導をした時の例では、指導前と後では、大きく平均値が上がっています。そしておもしろいのは、指導終了後の二ヶ月後にもう一度園でテストを行ったら、さらに結果が伸びていたことです。子どもは初めての動きや体験を、一度いい形で覚えると、いいスパイラルに入り、自分たちで興味を持って遊び、どんどん上達していくのです。

 

幼児期に運動能力が高かった子は、その後も高い

 

 幼児期に運動能力が高かった子はその後どうなっているかということを調査してきました。何年も前から幼児期の、年少児から体力テストを行い、小学校6年生まで、その子どもたちのデータを継続してとってきました。年長児と6年生時の体力テストの結果の関係を見ていくと、想像以上に男子も女子も関連が高い結果となっています。つまり、幼児期に運動ができた子どもは、小学生になっても運動ができる。特に男子は投能力において顕著です。ボール遊びを幼児期によくやっていた子は、その後も能力が高い。さらに詳細に分析してみると、男子のほうが同調の度合いが高く、女子は少し変わってきます。やはり女子の方が発育の加速化現象があり、若干早熟ですので、小学校高学年くらいになると、汗をかくのが嫌だとか、異性を気にしたりといったことが出てきます。ですから、趣向が変わりやすいと考えられます。

 

 それでは、幼児で運動能力が低かったら、低いままになってしまうと思うかもしれませんが、そうではありません。このなかで、小学校56年生でスポーツ少年団に入った子どもたちだけをピックアップしてみると、幼児期の段階で平均以下だった子どもたちが、56年生ではぐっと上がっていきます。ということは少年団やクラブに入ることによって、56年生の途中からでも向上傾向が見られるのです。運動能力をより高めるためには幼児期から運動をさせて、それをスポーツ少年団、運動クラブにつなげていくことによって、一段と高まることが考えられます。

 

幼少期の身体特性を考慮する

 

 幼少期の運動に際し、配慮するべき点についていくつか触れたいと思います。最初に挙げられるのが身体的特性を考慮した安全指導です。小学校の中学年、高学年のように自分の状態を客観的に理解できるところまでは至っていません。したがって、子どもたちは無理をさせれば頑張ってしまい、元気だった子どもが突然倒れたりすることもあるわけです。子どもたちが「あそこ痛い、ここ痛い」とか「ちょっと疲れている」と発してくれると期待していると、大変なことになってしまいます。また、幼児は視野も非常に狭く、ぶつかったりします。転んだ時に、本来であれば手をつく反射があるはずなのですが、顔から倒れてしまう。小学校でも、幼稚園、保育所でも、顔をケガする子どもが非常に多いのです。

 

 次に、子ども主体の遊びと指導者主体の運動遊びについてです。実は幼稚園、保育所の関係者に話を聞くと、必ず言われるのは、子どもが好きなように、好きなだけ遊ばせるのが大事といわれます。これが子ども主体の遊びです。しかし、私はそれだけでないと思っています。もちろん、子どもが好きなように遊ばせることも大切ですが、加えて、今はみんなでこれをやろうという、指導者が主体的にプログラムを考える遊び、狙いのある遊びをさせることも大事だと思っています。担任の先生や指導者が「みんなで集まって、鬼ごっこをしよう」と、これが指導者主体のプログラムです。子どもたち主体、指導者主体の両方があるといい経験ができるだろうと思っています。

 

子どもが飽きないように運動遊びを広げる

 

 続いて運動遊びを広げるということについて着目してみましょう。幼い子どもたちの特性としては飽きやすいということも挙げられます。ですから、目先をちょこちょこかえてやらないといけないのです。また、もう一点大事なのは、ずっと立ったまま、座ったまま、順番を待ったままという活動のない時間をなるべく少なくするということです。創意工夫でもって活動量を確保していただきたいのです。

 

 昔の子どもは日頃から遊んでいましたから、指導者の指導はその種目の非日常的な技能を高めるということが重視されていたでしょう。しかし、今の子どもたちは、日常で遊び込んでいませんから、一般的な運動能力を高めることから指導する必要があります。ですから、種目にとらわれないスポーツフェスティバルのようなものを年に2回くらいやっていただくのもいいのではないかと思っています。

 

 最後に「子どもが運動遊びに夢中になる6ヶ条」を挙げておきます。このようなことを意識しながら、少しでも多くの子どもたちに運動を好きになって頂きたいと、心から念じております。

 

1)動きや操作ができるようになる(成功体験)

2)次々に挑戦する課題がある(スモールステップ)

3)できるようになったことを認められ、褒められる

4)勝負の楽しさを体験する(真剣勝負)

5)遊びを通して良好な人間関係を構築する

6)ルールや遊び方を自分たちで考え、創造する

 

 春日晃章(かすが・こうしょう)1968年生まれ、岐阜県出身。金沢大学大学院で教育学の修士号を取得後、岐阜大学医学部で医学博士号を取得。2003年にはアメリカ・インディアナ大学で客員研究員を務める。現在は岐阜大学教育学部准教授として教鞭をとりつつ、学校法人春日学園はなぞの幼稚園・はなぞの北幼稚園理事長、岐阜大学保育園園長も務める。「幼児期運動指針策定委員会ワーキンググループ委員(20102011/文部科学省)」、「幼児期からのアクティブ・チャイルド・プログラム作成ワーキンググループ部会員」を務めている。